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東京地方裁判所 昭和42年(借チ)2061号 決定 1968年5月06日

申立人 酒井清

右代理人弁護士 篠岡博

相手方 川口弥太郎

主文

申立人は相手方に対し、金三〇万円を支払うことを条件として、申立人が別紙記載の借地権を板橋区上板橋三丁目一四番一六号小向国雄に譲渡することを許可する。

理由

一  申立人は昭和三一年六月一五日別紙記載の建物を株式会社茨城相互銀行より譲渡を受け、その所有権を取得し、その敷地である相手方所有の別紙記載の土地について、相手方との間で新たに別紙記載のとおりの賃貸借契約をして、借地人となったものであるが、昭和三三年一〇月以来長野県の現住所に移転し、右建物を必要としなくなった。

そこで、申立人は転居後右建物の一部を賃貸している小向国雄に譲渡することとして、これに伴なう借地権の譲渡につき相手方の承諾を求めたところ、拒絶されたので、本申立に及ぶものである。

二  本件資料によれば、右の事実のほか次の事実が認められる。

1  本件建物の一部には、申立人がその所有権を取得する以前から、川口日出夫が賃借居住しており、更に申立人は昭和三六年六月一五日阿保俊にも建物の一部を賃貸している。

2  申立人から建物及び借地権を譲渡しようとしている小向国雄は大工職に従事し、確実な収入を有するものと認められ、同人に借地権が譲渡されることによって、相手方が不利益を受けるような事情はうかがわれないし、その他譲渡を不相当とする事由も認められない。

3  よって、本件申立てについては許可するのが相当である。

三  そこで、附随の裁判の要否及び内容を検討する。

1  鑑定委員会の意見書によれば次のような金額が示されている。本件土地の更地価格は三・三平方米あたり一六万五、〇〇〇円、建付地価格はその九七%一六万円、借地権価格はその六八%一〇万八、八〇〇円であり、従って本件土地の借地権価格は三四八万一、六〇〇円となる。

申立人が第三者に借地権を譲渡する場合に、相手方に支払わせることを相当とする金額としては、存続期間を名義書換えの時から二〇年と定めるとの前提のもとで、残存期間が八年あることを考慮し、更新料にあたる借地権価格の八%二〇万八九六円と名義書換料にあたる借地権価格から右更新料を控除した金額の一五%四九万九〇〇円の合計額六九万一、七九六円となる。

本件建物の価格は、一八万四、〇〇〇円と認める。

借家人の有する借家権の価格を、借地権及び借家権価格の四〇%一四八万六二四〇円と認める。

以上によれば、申立人が本件建物及び借地権を第三者又は借家人に譲渡する場合の価格としては、一応借地権及び建物の価格から借家権の価格を控除した二一七万九、三六〇円ということになる。

2  ところで、申立人が本件建物及び借地権を取得した昭和三一年と現在とにおける土地価格を比較すると、六大都市の平均値として現在ほぼ一〇倍に相当するので、前記の計算方法によれば、借地権価格もほぼ一〇倍と考えることができる。従って、申立人が取得した当時における借地権価格と前記借地権価格(いづれも、申立人が現実に支払った代価及び現実に譲渡にあたって約定した代価をいうのではない)との差額約三一三万円は、土地の値上りに伴なう借地権価格の値上り分とみることができる。これから前記借家人がいることによる価格の低下分をさしひいた約一六五万円は、申立人が本件借地権を借家人に譲渡することによって受けうる利得とみることができる。この利得は専ら近時の土地価格の異常な騰貴によって生ずるものというべきであるから、借地人が独占すべきではなく、その一部を相手方に還元することが、現在の借地関係のもとでは衡平な処置ということができる(申立人が実際に譲渡する場合の代価をいくらに定めるかは、申立人と譲受人との間の合意によって定まることであるから、上記の利得は申立人の受ける現実の利得ではなく、通常の取引価格で譲渡されることを前提とする観念的な利得である。しかし、申立人が現実に代価をいかに定めるかには、賃貸人は関与しないのであるから、賃貸人との間の利害の調整を図るにあたっては、原則として通常の取引価格を前提として算出するのが相当である)。

そこで、相手方に還元すべき額について計算をする。本件借地権は残存期間が八年あるから、まづ右一六五万円のうち二〇分の八にあたる六六万円は申立人の受ける分として控除する。次に、仮りに申立人が借地権を譲渡しないで八年後の期間満了をむかえ、その際相手方が更新を拒絶した場合において、借地契約が終了することになるかどうかは、現在推定することは不可能ではあるが、少なくとも現在の状況のまま推移したとすれば、本件においては、更新を拒絶するに足りる正当の事由があると認められる可能性は少ないものといわなければならない。右の事情を考慮すれば、前記一六五万円から六六万円を控除した残額約一〇〇万円のうち一〇分の七にあたる部分は申立人において取得しうるものとし、三〇万円が相手方の受けうる額とするのが相当であると考える。よって、申立人は本件借地権の譲渡にあたり、三〇万円を相手方に支払うべきものとする。

なお、借地権の存続期間及び地代については、この際変更する必要を認めない。

以上により、主文のとおりに決定をする。

(裁判官 西村宏一)

<以下省略>

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